昨今大変大きな話題となっているのがいわゆる「老後2,000万円問題」です。日本人の平均的なパターンで考えた場合は公的年金以外に2,000万円程度の貯金・資産が必要だというレポートが金融庁から出され国会でも連日大問題となりました。この2,000万円が多いか、少ないかは別として少なくとも年金以外に各自が蓄えをしておかないと老後の暮らしが危ないというのは大多数の国民が共通認識として持っているのではないでしょうか。この問題を収益用不動産を運用することでどのように解決できるかを考えてみたいと思います。しかし対象年齢をどの年代に設定するかで不動産の運用も大きく手法も異なってきますので、今回は老後問題を切実に感じ始める年代である40代半ば(現状の制度では約20年程度で年金受給を開始する年代)以降の方々がどうすれば不動産の運用で今回話題となっている2,000万円の備えをある程度安全に確保出来るかを検証してみます。
①65歳時に2,000万円を手元に残すには
65歳時に2,000万円を残すということは考え方として大まかに二通りが考えられます。ただ不動産の運用には税金や金利、減価償却等も複雑に絡んできます。その人の収入によっても所得税が変わってきたりするため、運用結果は大きく異なってきます。不動産を売却した際の譲渡所得も保有期間で税率は変わりますので、今回は税金等の諸条件を一旦は無視して考えてみます。税金等の諸条件は各自が自分の場合はどうかということを考えてもらえれば結構です。
まずはキャッシュフローで2,000万円を貯めるという考え方です。家賃収入から融資返済額や固定資産税、保険料、修繕費等を差し引き毎年100万円手元に残るとすれば20年で2,000万円、毎年200万円残せる場合は10年で2,000万円を確保出来ます。ただこの考え方で残す場合は仮に65歳時に物件を売却した際にローンの残債がある場合は売却金額で残債が消えることが前提となります。運用期間トータルで2,000万円残ったとしても売却時に残債を0にするのに追加で500万円手持ちの資金が必要となったらトータルで1,500万円しか残らない計算になります。
次にキャッシュフローをある程度度外視し、毎年の収支は賃料と経費でトントンかもしくは赤字になっても構わないと割り切って、売却時に売却金額から残債を引いた残りが2,000万円になる(譲渡所得税の問題が発生する場合もありますがここでは無視します)ことを目指す方法です。キャッシュフローよりも将来的な売却益を考えた手法になりますので、少し上級者向けになるかもしれません。
②不動産の運用は売却時に収支がはっきりする
不動産の運用を考える場合は毎年の収支だけを考えればいいわけではありません。更地を貸す場合等はまた考え方も変わってきますが、個人投資家の方は一般的には建物を取得し入居者を確保し収入を得るものですので、保有期間が終了する時までにどれだけの修繕費がかかり、売却時はいくら手元に残るかを考えなければなりません。
今回は運用期間を10年~20年程度の不動産の運用としては比較的短期間での運用の話ですので、売却時にいくら手元に残るかをより重視して考える必要があります。そのためどちらかといえばキャッシュフローよりも売却時に出来るだけ価格が下がらない物件をお勧めすることになります。いくら当初はキャッシュフローに余裕が有ってもそれが将来的に続くものではありません。修繕費は必ずかかりますし、家賃も築年数に応じて下がってきます(特に住居の場合は下落率は店舗に比べ大きくなります)。売却時に大幅に価格が下がってしまえばそれまでの収益が台無しになります。
もちろん売却時にいくら位で売れるかはその時の経済状況にも左右されますので、一概には言えませんが、過去の経験則から10年~20年後程度先の話であればある程度の予測が出来る部分もありますので、65歳の時点で高い確率で2,000万円の資産を築くための物件とは何かを考えてみます。
③リスクを抑えて手堅くキャッシュを残せる物件とは
まず誰もが考えるのが一棟アパマンを所有しようと思うでしょう。区分所有物件と違い空室リスクも部屋数が多いことで分散されますので個人投資家の方には大変好まれる物件です。それでは、物件売却時に2,000万円を残すためにはどのような一棟アパマンでなければならないでしょうか。
既にアパマンを運用している方であればお分かりでしょうが、昨今の賃貸居住物件の入居付は大変厳しい戦いになっています。その原因は何といっても空室率が高すぎることです。そのため今は借り手が断然有利な状態になってきています。オーナー側は何とか入居率を上げるために設備投資を行い、家賃も見直し、不動産会社へ支払う手数料も上乗せして何とか自分の物件に入居付をしてもらうように必死に動いています。この様な状況は今後もかなり高い確率で続くものと思われます。相変わらず新築住宅・アパマンは毎年ものすごい戸数が建築されていますので、築年数が多少古くなると賃貸物件の競争力は劣ってくる為家賃の引き下げ等も対応しなければならなくなります。
このようにキャッシュフローも厳しいですが、アパマンの売却時の価格も安心してはいけません。最近の売却動向は価格が高止まりしているような状況です。表面上の販売価格で売れればいいのですが、スルガ銀行の問題も有りアパマンに対する融資が非常に厳しくなっているため融資の審査が通らない為アパマンの販売数は非常に減ってきています。そのため早期に売るためには想定よりもかなり価格を下げて売り切るようにしないと難しい状況です。
それでは比較的アパマンよりも価格が維持されている物件で、ランニングコストも抑えられ個人投資家の方にも手が届きやすい物件はどのような物件でしょう。それは区分所有の1階店舗物件での運用です。その理由は店舗や事務所の事業系の賃貸募集を手掛けると分かりますが、築年数による家賃の下落はあまり影響ないこと、そして一旦入居すると入居期間が長い為リフォーム費用も抑えられること、その中でも特に1階の店舗物件は立地が多少悪くても入居付がしやすい点にあります。そうは言っても立地については都内23区内、横浜、川崎がお勧めです。首都圏でもそれ以外の立地では家賃も低く入居付も難しい為、駅からの距離は多少離れても区分店舗物件の立地は上記の場所がお勧めです。
区分所有物件を保有する際に心配になるのが入居が決まらないと毎月の管理費だけ赤字になるという点ですが、それもさほど心配は要りません。1階の店舗物件は根強い需要がありますので、半年程度我慢すれば高い確率で入居者の見込みが出てきます。店舗物件は入居後は殆どオーナーがすることは無いので維持管理もアパマンに比べればかなり楽です。
そして最大のメリットは売却時の価格が購入時からさほど下がらないということです。アパマンの場合は仮に20年保有したとした場合は、メンテナンスや入居率によっても変わってきますが木造アパートなどは購入時の半値以下に下がるようなことはごく普通にあります。しかし区分店舗物件を中古で入手した場合、10~20年経過してから売却してもさほど値段は下がらず、経済状況やその時の入居者の状況等によってはかえって値上がりして大きな売却益を生じる場合も有ります。入居者がいない時の怖さはありますが、多少のリスクを抱えることが出来る方には一番お勧め出来る年金問題に対応する不動産の運用方法です。
④融資が通るかどうかが問題、購入事例で考える
年金問題への対応の為に物件を購入することを検討している方は、その殆どの方が融資を受けて物件を購入されるものと思われます。話を分かり易くするため50歳の方がローンで物件を購入し65歳時に売却し2,000万円が手元に残るか考えてみたいと思います。
まず一棟アパマンを購入する場合ですが当然のことながら購入する額はかなり大きな金額になります。首都圏でも3千万円前後で売られている物件もありますが、それらの物件は殆どが築古の木造物件で融資も通りそうでない物件ばかりです。仮に融資が通ったとしても家賃は極端に低い物件が予想されるため入居者の属性が悪く、築古のため修繕費もかなりかかることが予想される為あまりお勧め出来ません。
やはり一棟アパマンを購入するとなれば最低でも5~6千万円程度の物件を購入することが一つの目安になるでしょう。この価格帯でも首都圏では築古の木造物件が想定されますが、ここで融資の審査のハードルがかなり高いことを思い知らされます。仮に5,000万円の物件を65歳時に完済しようとすると月々の返済額は約30万円程度になり、銀行が簡単に貸せる金額であありません。それなりの収入の裏付けがあり物件も15年の融資期間が組めるとなると築古木造物件では難しい為、物件選択の幅が相当狭くなります。物件を買いたくても融資が通りそうな物件自体が出てこないのが実情です。運よく融資が通っても築浅、RC造とかではないため修繕費もかなりかさみ入居付も相当苦労することは目に見えています。
次に3,000万円で売られている1階店舗物件の購入を考えてみましょう。前提として入居者が入っている物件を購入するものとします。利回りの相場は7~8%位ですので月々の家賃は少なくても18万円程度にはなっています。この場合建物の構造はRC造が殆どなので構造上の問題は無く、融資が通る場合は15年程度の融資期間は確保出来る可能性は高くなります。毎月の返済額は約18万円程になりますが、毎月の管理費等の支払も恐らく3万円程度はかかるでしょうから、この場合は毎月の赤字額は3万円になります。店舗物件の場合同じ入居者が長期に入居するものですので、15年間入居者が変わらないことも考えられる為、その場合は毎月の管理費分の赤字が積み重なり15年間で540万円の赤字になります。他にかかる費用としては固都税や火災保険料等がありますので、それを年間15万円程度とすればトータルで225万円です。この2件の出費の合計額は765万円ですがこの他に考えられるのが修繕費です。店舗物件の場合は基本的にはスケルトン貸しのスケルトン戻しですのでリフォーム費用はさほど考慮する必要がありませんが、仮に50~100万円程度として、購入時の諸費用も含めると概算で15年間の赤字額が1,000万円ほどになるのではないかと思われます。15年間で入居者が退去し空室期間が生じた場合はその分赤字額が膨らみますが、恐らく半年程度で解消される可能性は高いです。
それでは15年後に売却する場合を考えてみましょう。立地が前述した通りの立地であれば購入時の価格である3,000万円程度の価格で売れる可能性は高いです。店舗物件はオーナーチェンジ物件の方が相場が高いので、オーナーチェンジとしての売却をお勧めします。3,000万円で売却出来れば残債は0なので、運用期間の赤字額1,000万円を差し引いても手元に2,000万円が残る計算になります。
この計算はかなりシンプルに考えていますが、一棟アパマンの場合は店舗物件に比べ必ず修繕費は高額になり、固都税や火災保険料も間違いなく店舗物件より高額です。入居率も築年数を経るごと厳しくなってくるため、店舗物件の様なシミュレーションを作るのは大変難しい作業になります。15年後の売却金額も想定が非常に難しく一棟アパマンの場合は店舗物件の様なシミュレーションは事実上困難です。
3,000万円の店舗物件を購入するのがハードルが高いとお考えの場合は、1,500万円の物件を2件購入することをお考え頂ければいいでしょう。物件数は限られますがお勧めの立地でも購入は可能です。利回りやその他の条件もさほど大きく異なることも無いので単純に3,000万円の物件を購入する場合のお金の動きが半分になると考えて頂ければいいと思います。日本政策金融公庫で融資を受ける場合は融資のハードルも一棟アパマンよりもかなり低く購入出来る可能性も高い物件です。リスクを極力抑えて2,000万円を確保する方法の一つとしてご検討頂ければ幸いです。